近世の軒は、正しく「隅延び」が行われず、両端だけを反り上げ、中程は直線としたものが多いが、そうすると中央が錯覚のため盛り上がって見える。鎌倉時代の「禅宗様」では、軒隅の反り上りは甚だしく、急に鋭く尖ったものが好まれ、まさに跳ね上がっている。すなわち、軒桁もこれに応じて折れ線をなして反り上り、柱長もまた高くなっている。さらにいえば、隅の反り上りに応じて、「垂木」の断面(木口)を精妙に菱形につくる。これを「菱癖(ひしぐせ)を付ける」と称する。
また、視覚調整のため「柱」は中心に対して、内側に僅かに傾かせ、安定感のある外観に見せている。これを「内転び(うちころび)」という。五條市の「栄山寺八角円堂」が有名である。
それだけでなく、建物の平面も、普通は矩形につくるところを、両端に行くほど、「柱」を外側に置き、併せて軒の出も隅に行くに従って長く設定する。これを「平延び(ひらのび)」という。建物の正面に立って見たときに両端が後方に下がって見える錯覚を矯正するための手法であると考えられる。日本ではわずかに「東大寺法華堂(三月堂)」の一例が遺されているといわれる。
隅延び
(すみのび)
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